手作り漬物が店頭から消える
地域政策研究家
荒田 英知 氏
荒田 英知 氏
道の駅や地場産品の直売所で売られている多彩な食材の中で、手作りの漬物が人気を集める例が少なくない。近隣の農家などが手塩にかけて作ったもので、唯一無二の味を求めてわざわざ買いに来る常連客もいる。今や全国そこかしこで見られる光景である。ところが、そうした漬物の多くが6月以降は店頭から姿を消してしまいそうなのだ。
従来、漬物の製造販売は都道府県などへの届出制であったが、2012年に浅漬けに起因する集団食中毒で8人が死亡したことを発端に、2018年に食品衛生法が改正され、許可制となった。経過措置を経て2024年6月に完全施行される。許可を得るには衛生基準を満たす設備が必要で、導入には費用がかかる。
手作り漬物は高齢者が自宅で漬けていることが多く、対応は進んでいない。西日本新聞によると、福岡県の管轄区域※では2022年度末時点で届出が3693件に対して許可取得は175件しかなかった。多くの生産者が法施行を潮時と捉えていることが想像に難くない。全国的にも似たような状況と思われる。
日本の伝統的な食生活の中で漬物は欠かせぬ地位を占め、各家庭には受け継がれてきたぬか床があった。また、近年の食物栄養学では、漬物は上手に摂取すれば健康に有益と説く。手作り漬物は日常の食卓から更に遠のくことになりそうだが、改めてその価値をかみしめておきたい。
※福岡、北九州、久留米の各市を除く。
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1962年、福岡県生まれ。
1985年、鹿児島大学を卒業後、PHP研究所に入社。地域政策分野の研究員として30年以上全国をフィールドワーク。北海道大学特任教授、九州国際大学非常勤講師も務めた。