消費税と逆進性
竹中 平蔵 氏
消費税率を予定どおり引き上げるかどうかに注目が集まっている。景気への影響、財政健全化への貢献など、政治動向とも絡んで様々な議論がなされてきた。しかし同時に、もう一点注目を要する問題がある。それは、増税に併せて「軽減税率」が適用されることだ。これに関しては、重要な論点が意外に軽視されている。
軽減税率は酒類や外食を除く飲食料品が主な対象。食費は所得水準に関係なく一定の支出が必要になるから、消費税には逆進性(低所得層ほど税負担率が大きくなること)がある。だから飲食料品に対する消費税率は、従来どおりの低いままにとどめるという考え方だ。しかし、軽減税率には逆進性緩和の効果があるのだろうか。
スタンフォード大学の星岳雄教授らが興味深い提言をしている。それは適切な計量分析による限り、政府が考えている軽減税率に逆進性緩和の効果はほとんどない、という内容だ。そのうえで、低所得世帯に一定額の給付金を出すべきだ、そうすれば大幅に逆進性の緩和ができると述べている。一見ばらまきのようにも見えるこの提言は、しかし重要な示唆を含んでいる。それは、「ベーシック・インカム」(政府が最低限の生活に必要な現金を定期的に支給する制度)の議論につながるという点だ。軽減税率は制度を複雑にするだけだろう。むしろ提言を参考に、日本も正面からベーシック・インカムの採用を考えるべき時期がきているのではないだろうか。
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1951年生まれ。
ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学教授などを経て2001年の小泉内閣発足後、経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣などの閣僚を歴任。現在、東洋大学国際学部教授、慶應義塾大学名誉教授。政府の各種会議のメンバーも務める。
【竹中平蔵公式ウェブサイト】