日本の問題

経済統計の「裏切り」

学習院大学国際社会科学部教授
伊藤元重 氏

毎月勤労統計の運営が大きな問題となっている。全数調査とすべき大企業のデータがそうなっていなかったり、その後公表せずに調査の方法を調整したりしていたようだ。本来は、ほとんどの人が関心を持たないような専門的な統計データであるものの、実際の政策運営では重要な意味を持っており、データの作成において不備があったというのは大きな問題である。

日本経済の足元のマクロ経済状況を判断するうえで、賃金上昇のスピードは大きな注目を集めている。賃金が上昇すれば、勤労者の可処分所得も増えて消費の拡大が期待できる。さらには、物価が安定的に上昇していくうえでも、賃金が上昇することが重要であるからだ。

そうしたこともあって、政府は経済界に賃上げを要求してきたし、それが実現しているかどうか、賃金の統計が注目されることになる。その統計に不備があったのだから問題なのだ。

政府は、政策の判断をデータに基づいたものにするEBPM(Evidence Based Policy Making)を指向してきた。その考え方は正しいと思うが、その基礎となる統計が信頼できないのでは話にならない。早急に原因を究明して、是正措置をとってほしいものだ。

2019年2月4日

過去記事一覧

伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。現在、学習院大学国際社会科学部教授、東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)