日本の問題

「シビックテック」の芽吹き

地域政策研究家
荒田 英知 氏

スマートフォンが普及してICT(情報通信技術)が身近になり、これまで行政が担ってきた公共分野に市民の力を活かそうとする試みが始まっている。それが「シビックテック」だ。

様々な活用策が模索されているが、即効性が期待されるのは、公共インフラの維持・管理である。2021年8月に東京都渋谷区で開催されたイベント「マンホール聖戦」は、その可能性を関係者に直感させた。

約700人の参加者が専用に開発されたアプリを用いて、区内に約1万あるマンホール蓋の写真を3日間ですべて投稿。老朽化などで対策が必要な箇所をあぶり出した。

同年11月には、石川県加賀市でも開催され、市内約8,000のマンホール蓋を1日半で撮り終え、状態別にデータベース化した。従来の点検業務とは異次元の速さである。

スマホアプリを活用した取り組みとしては、千葉市が2014年に導入した「ちばレポ」が知られている。道路・公園・ゴミ・その他の4分野での身近な困りごとを、写真と位置情報をつけて市役所にレポートするというものだ。対応状況もアプリで確認できる。今では市民提案などのテーマも加わり、他の自治体でも利用可能な仕様になっている。

芽吹き始めたシビックテックを社会に浸透させるためには、ICTを媒介にして市民と行政の関係性を再構築する「ソーシャルデザイン力」が問われてくるだろう。

2022年2月28日

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荒田 英知 氏

1962年、福岡県生まれ。
1985年、鹿児島大学を卒業後、PHP研究所に入社。地域政策分野の研究員として30年以上全国をフィールドワーク。北海道大学特任教授、九州国際大学非常勤講師も務めた。

荒田 英知 (あらたひでとも) 氏