日本の問題

新型コロナ禍で東京集中は終焉?

大阪経済法科大学
経済学部教授
米山秀隆 氏

東京都の人口移動は、高度成長期には転入超過であったが、その後は長く転出超過が続いていた。その間も東京圏全体(1都3県)では転入超過だった。これは埼玉・千葉・神奈川の3県が転入超過だったことによる。東京都だけは「ドーナツ化」の進展で転出超過となっていた。

東京都の転出超過に歯止めがかかったのは1997年である。バブル崩壊後の地価下落、それに伴う大規模マンション開発により都心回帰が進んだためである。その後、転入超過数は増加を続け、リーマンショック時には縮小したが、アベノミクスによる景気拡大時は増勢が増した。

しかし、新型コロナ禍がこうした東京集中の流れに変化をもたらした。2020年の東京都の転入超過数は3万1,125人で前年比5万1,857人減少した。テレワークの普及が東京都からの転出を促したと考えられる。

ただ、転出先の過半数を埼玉・千葉・神奈川が占める。テレワークができても週数回で、残りの日は出勤が必要な人が多いため、移り住むにしても通勤との両立を図れる郊外にとどまっているとみられる。また、東京都では都心部の人口は2020年も増加した。職住近接により通勤時の感染リスクを減らせる点は、むしろ都心部の魅力を高めている。今後も地方への本格的な人口移動に至るとまでは考えにくく、新型コロナ禍が東京集中にストップをかけるとまではいえないのではないだろうか。

2021年3月29日

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米山秀隆 氏

1963年生まれ。
野村総合研究所、富士総合研究所、富士通総研などを経て2020年9月から現職。専門は住宅・土地政策、日本経済。主な著書に、『捨てられる土地と家』(ウェッジ)、『縮小まちづくり』(時事通信社)、『限界マンション』(日本経済新聞出版社)など。
【米山秀隆オフィシャルサイト】

米山(よねやま) 秀隆(ひでたか)氏