長期停滞論と新型ウイルス
学習院大学国際社会科学部教授
伊藤元重 氏
伊藤元重 氏
新型コロナウイルスが猛威を振るっている。発生源が急成長を続けてきた中国であるということで、世界経済への影響が懸念される。
これに関連して、長期停滞(secular stagnation)と呼ばれる現象に触れてみたい。ここ数十年、先進国の経済成長率は伸び悩んでいる。それが象徴的に現れているのが、長期金利の動きである。10年物国債利回りから物価上昇率を引いた長期実質金利でみると、日本で30年前は3.5%以上あったものが、現在はマイナス0.8%程度となっている。この間、長期の実質金利は下がり続けてきた。米国や欧州でも同じ動きである。こうした金利の低下傾向の背景には、先進国の生産性や成長率の伸びが落ち込んでいることがある。先進国はかつてのような活力のある成長を実現できていないのだ。
そんな中で出てきたのが「BRICS論」である。ブラジル(B)、ロシア(R)、インド(I)、中国(C)といった新興国の急速な経済成長が世界経済の成長を支えるという議論だ。実際、この20年ほどの中国の経済成長率は驚異的である。ブラジルやロシアなどの成長が続いているわけではないが、新興国が世界経済を支えているという構図に変わりはない。日本経済も新興国の経済成長やグローバル化によって支えられている。
だからこそ、人や物の動きを止める新型コロナウイルスの経済への影響がより懸念されるのだ。
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1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。現在、学習院大学国際社会科学部教授、東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】