日本の問題

非合理を前提にした行動経済学

学習院大学国際社会科学部教授
伊藤元重 氏

経済学の近年の大きな発展分野は「行動経済学」だ。人々が合理的な行動をするという前提で多くの理論が組み立てられてきた。現実に人々が常に合理的に行動するとは限らないが、そうした非合理性は誤差のようなもので、経済全体をみるときには概ね合理性を想定してよい。

だが、こうした前提に疑義を挟む研究結果が多く出てきた。ある種の行動においては一貫した合理性からの乖離があるようだ。「予想できるほどに非合理」という意味での、非合理性の分析が続いている。書店のビジネス書のコーナーに行動経済学を利用したマーケティングなどの本が多く並んでいるので、実践的な成果を提供するものであることを知っている人も多いだろう。

一般書籍の中で語られることが少ない行動経済学の関連分野に、資産市場の分析がある。株式や債券などの資産市場での人々の行動は、冷徹な合理性に基づくものだと伝統的な経済学では考えられてきた。しかし、バブルやクラッシュを繰り返す現実の資産市場をみると、資産価格が合理性だけで決まっているとは思われない。そこで、一貫性のある非合理性によってバブルなどの現象を分析する研究が多く提起されている。

最近は「コロナバブル」という言い方がよくみられる。新型コロナウイルス問題で実体経済がこれだけ悪いのに、資産価格の高値が続く。これも合理性からの乖離なのだろうか。

2020年8月17日

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伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。現在、学習院大学国際社会科学部教授、東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)