日本の問題

「脱炭素」に乗り遅れるな

学習院大学国際社会科学部教授
伊藤元重 氏

気候変動問題に対する動きが加速している。菅義偉首相が昨年10月に国会で2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすると発言してから、日本でも多くの企業が気候変動対応の見直しを始めている。

温室効果ガスを減らすことは経済的に大きな負担になるように見えるが、欧米では逆に、そうした変化が経済の活力を取り戻す原動力になるという見方が広がっている。そんな考え方の変化の背景には、様々な分野で技術革新のスピードが上がっていることがあるようだ。

北欧や米カリフォルニアなどで膨大な数の風力発電設備が稼働している写真を見たことがある人は多いだろう。これによって、近年はこれらの地域での風力発電の発電コストが化石燃料による発電コストよりも安くなっているという報告もある。再生可能エネルギーに巨額の投資をすることでコストを大幅に下げることができるという「規模の経済性」が働いているのだ。自動車分野でも、欧州のメーカーは電気自動車に一気に舵を切ったように見える。米国の電気自動車メーカー・テスラの株式時価総額は業界他社を引き離してトップの位置にある。

社会の姿を変えるためには、技術の力が必要だ。気候変動の分野でもそうしたダイナミックな動きが始まっている。日本は現状、その流れに乗り遅れているように見える。取り組みをさらに加速する必要がある。

2021年4月12日

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伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。現在、学習院大学国際社会科学部教授、東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)