日本の問題

大きく前進した経済連携協定

学習院大学国際社会科学部教授
伊藤元重 氏

近年、日本の通商政策において経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)の重みが増している。多国間の通商制度の枠組みであるWTO(世界貿易機関)が機能しにくくなっているため、少数国間で行う自由貿易交渉がより重要になっているのだ。日本は2002年にシンガポールと初めてのEPAを締結してからアジア諸国などと次々に結んできた。

それでも2015年時点で、EPA・FTAでカバーされる貿易額の割合(貿易カバー率)は22.7%しかなかった。それは、アメリカや中国のような貿易大国、カナダやオーストラリアなどの農業大国との交渉を避けてきたからだ。農業者の貿易自由化への政治的な抵抗が強かったことなどがその背景にある。

そうした流れの大きな転換点となったのが、2013年に日本がTPP(環太平洋経済連携協定)の交渉へ参加を決めた時だ。貿易大国であるアメリカや農業大国であるオーストラリアとの交渉が始まったのだ。その後、トランプ大統領によりアメリカが交渉から離脱したが、2018年にTPPは発効した。さらに日本はEU(欧州連合)とのEPAや中国・韓国も含むRCEP(地域的な包括的経済連携)を締結することができた。

その結果、現在の貿易カバー率は約80%にまで上昇。長い時間がかかったが、日本のEPAは大きく前進した。これは大きな成果であり、最大限活用してほしいと願う。

2021年7月12日

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伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。現在、学習院大学国際社会科学部教授、東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)