日本の問題

加速する新たなツーリズム

地域政策研究家
荒田 英知 氏

新型コロナ禍で大打撃を受けた観光業界では、立て直しへの模索が続いている。「3密」を避け、旅先やリゾート地で休暇を楽しみながら働く「ワーケーション」や近隣を目的地とする「マイクロツーリズム」など、新しい旅の姿も提唱されている。

日本社会の成熟化とともに、大人数や団体の周遊型から、少人数か個人の滞在型、体験型へという観光スタイルの変容は以前から見てとれた。インバウンド (訪日外国人旅行客) も数頼みでは特定の観光地に集中しすぎて、地元住民の生活に支障をきたす「オーバーツーリズム」を招くことをすでに経験している。

山梨県富士河口湖町にある宿泊施設「星のや富士」が提供する「グラマラス富士登山」が好評だという。3日間で1人28万円 (宿泊料は別) の高額プランだが、富士山を知り尽くす登山ガイドが登頂を万全にサポートするほか、江戸時代から続く富士講を世話してきた御師 (おし) の家を訪ねるなど歴史や文化にも触れる。

この事例のポイントは、その土地に根づいた生業や歴史文化を活用することが、高い付加価値の源泉になっている点である。地域資源が持つ価値を再評価することが、新たなツーリズムのヒントになる。

新型コロナ禍からの出直しは、大都市の旅行会社がツアー客を募る発地型観光から、地域の魅力を地元から情報発信して誘客する着地型観光への転換を加速していくだろう。

2022年9月12日

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荒田 英知 氏

1962年、福岡県生まれ。
1985年、鹿児島大学を卒業後、PHP研究所に入社。地域政策分野の研究員として30年以上全国をフィールドワーク。北海道大学特任教授、九州国際大学非常勤講師も務めた。

荒田 英知 (あらたひでとも) 氏