日本の問題

円安で求められる経済対策の増強

大阪経済法科大学
経済学部教授
米山秀隆 氏

急激な円安の悪影響が懸念されている。現在の円安は、アメリカがインフレ抑制のため利上げを急ぐ一方、日本は長短金利とも低位で安定させる長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)を変える構えは見せておらず、内外金利差が拡大していることによる。

日銀がYCCの修正に動かない直接的な要因は、2%の安定的な物価上昇目標を達成できるめどが立っていないためである。加えて、金利を低位で維持することが利払い費を抑制し、国の財政運営を助けている現実も無視し得なくなっている。

円安メリットは輸出の採算好転や海外収益の円換算額拡大などグローバル企業に集中する一方、デメリットは輸入品のコスト高を通じ中小企業や家計に広く及ぶ問題がある。これに対し、政府は経済対策で悪影響をやわらげようとしている。つまり金利の低位安定で余力が生じている財政に頼る構図となっている。

円安の悪影響をしのぎ、やがてアメリカのインフレが収まれば、日銀はYCCを維持できるだろう。しかし、アメリカのインフレが収まらず、円安がさらに進展する場合、YCCは維持できなくなるかもしれない。その場合、金利上昇が財政や景気に悪影響を及ぼす。日本の成長軌道が確かになればYCCを解除できる時もくるが、今はその時期にない。日銀が動ける余地は小さく、政府の経済対策増強が必要になる。

2022年5月30日

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米山秀隆 氏

1963年生まれ。
野村総合研究所、富士総合研究所、富士通総研などを経て2020年9月から現職。専門は住宅・土地政策、日本経済。主な著書に、『捨てられる土地と家』(ウェッジ)、『縮小まちづくり』(時事通信社)、『限界マンション』(日本経済新聞出版社)など。
【米山秀隆オフィシャルサイト】

米山(よねやま) 秀隆(ひでたか)氏