日本の問題

GX 経済移行債

東京大学名誉教授
伊藤元重 氏

気候変動問題への対応のために経済社会の構造を変えていくことをGX (グリーントランスフォーメーション)という。政府にとって、GXを進めることは経済成長を促進するうえでも重要なポイントとなっている。

水素やアンモニアを活用できるネットワークを確立し、再生可能エネルギーによる発電への投資を進め、そして自動車の電気化を進めていく。こうした変化を実現するためには民間企業による膨大な投資が必要となるが、それが実現すれば、気候変動への対応で大きな進展となるだけでなく、経済全体の活力を高めることにもなる。こうした期待感がある。

岸田文雄首相は、今後10年間に官民合わせて150兆円ほどの脱炭素への投資を期待したいと発言している。そのためには、政府としても20兆円程度の資金を投じる必要があるという。仮称ではあるが、「GX経済移行債」と呼ばれる債券を発行して基金をつくり、その資金を通じて民間投資150兆円につなげようというものだ。政府の資金の投入を基金で賄うというのは、それを将来に別の形であげた収益で償還しようということだ。つまり財政赤字のように政府の債務に組み入れるのではなく、将来の財源を確保したうえでの歳出となる。財政赤字を出さずに財政支出を行うということだ。

将来の収入については炭素税などいろいろな可能性が論じられているが、その検討はこれからだ。

2022年8月8日

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伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。2016年から2022年3月まで学習院大学国際社会科学部教授。東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)