日本の問題

社会の分断と民主主義

慶應義塾大学名誉教授
竹中 平蔵 氏

アメリカのトランプ現象やイギリスのブレグジット(EU離脱)を契機に、「社会の分断」が多くの国で懸念されるようになった。欧州でも極右や極左の政党が力を持ちつつある。なぜ社会の分断が起こるのか?

その最大の理由は経済的格差の拡大にあろう。所得格差を示すジニ係数は世界的に上昇傾向にある。

だが、より重要な問題が社会分断の背景にある、と歴史家のフランシス・フクヤマ氏は指摘する。ソーシャルメディアが発展する中、各個人の「情報空間」が分断されているという点だ。知らず知らずのうちに私たちは、自分のテイストに合った情報ばかりに接している。1冊の本を買うと、関連した本の宣伝ばかりが送られてくる。考えが近く気の合う同士がチャットしている。その結果、例えばアメリカのトランプ氏支持者で、2020年の選挙が不正だったと主張している人たちは本当に不正が行われたと心底信じているのだ。

以前は異なる「情報空間」をつなぐ機能としてNHKニュースや新聞の解説があった。だが、テレビや新聞を見ない人が増え、そうした知的なアンカーが機能しなくなっている。

こうした中で形成される世論は時に歪み、政治は世論に翻弄される。民主主義社会の運営が本当に難しい時代になった。情報空間の分断をつなぐような真に信頼されたジャーナリズム、分断に挑む強い姿勢の政治リーダーが必要とされている。

2022年12月19日

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竹中平蔵 氏

1951年生まれ。
ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学教授などを経て2001年の小泉内閣発足後、経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣などの閣僚を歴任。慶應義塾大学名誉教授。政府の各種会議のメンバーも務める。
【竹中平蔵公式ウェブサイト】

竹中平蔵(たけなか へいぞう)