日本の問題

金利上昇への備え

東京大学名誉教授
伊藤元重 氏

世界的なインフレの流れの中で金利が上昇している。金利の上昇は経済に様々な影響を及ぼす。株価の下落もそのひとつ。詳しいメカニズムの説明をするスペースはないが、最近の米国の金利と株価の動きを見れば、それは明らかだろう。

不動産価格も金利に敏感に反応する。金利が上がれば住宅ローンの利子も上昇する。日本の住宅ローン利用者の多くが固定金利ではなく、変動金利を選択している。金利は上がることはない、あるいはまだ下がると考えているからだろう。

金融機関の専門家の方が「自分たちが仕事に就いてからこれまで金利は下がっていく一方であった」と話すのをよく聞く。「約30年前に7%前後だった長期金利(新発10年物国債利回り)が今や0%台。金利が上がっていく状況は経験がないし、想像することも難しい」と。

だが、長く続いた金利の下落が今、大きく転換しようとしている。海外だけの話ではない。日本でもインフレ率が少しずつ高まっていく中で、金利が上昇を始めると予想する専門家は少なくない。

金融の専門家だけでなく、一般の生活者も金利が上昇していくことを想定した生活設計が求められる。そうした意味でも今、海外で起きていることに関心を持つべきだ。

金利の上昇は私たちの生活に大きな影響を及ぼすだろう。だが、決して悪いことばかりではない。

2022年12月5日

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伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。2016年から2022年3月まで学習院大学国際社会科学部教授。東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)