日本の問題

円レートの行方

東京大学名誉教授
伊藤元重 氏

為替レートが大きく揺れている。米国や欧州で金利が急上昇する中で、日本の金融政策は脱デフレの姿勢を維持している。その結果、日本と米国などの金利差が広がり、円レートがそれに敏感に反応している形だ。

日米の金利差が開けば、円安になるのは当然。そう考えている人は多いだろう。資金は、金利が高いドルの方に流れるので、ドルが買われて円が売られる。だから、円安(ドル高)になるというロジックだ。

実際、この1年で日米の長期金利の差は1%強から3%強に広がった。金利差が2%開いたことになる。その間に、円ドルレートは110円前後から140円台に、おおよそ30円の円安になった。2%で30円。1%では15円という計算になるが、この論理に根拠があるとは思えない。円安にはなるだろうが、1%の開きで何円動くのかを理論的に定めるのは難しい。

現実に起きていることは、市場心理が強く影響している動きと考えるべきだ。金利差が開けば円安になる。市場では皆がそう考えているようだから、自分もその流れに乗る。こうした状況を金利相場と呼ぶ。

当面は金利相場が続くのだろう。ただ、この状況がずっと続くとも思えない。市場の心理は時に大きく変化するものだ。

残念ながら円レートの変化の方向を予想することはできないが、しばらくは円安にも円高にも振れやすい不安定な相場になりそうだ。

2022年10月11日

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伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。2016年から2022年3月まで学習院大学国際社会科学部教授。東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)