物価・賃金が動く世界へ
2022年4月以降、前年比2%を超える物価上昇が続いており、企業や家計の先行きの物価見通しも上昇している。とりわけ企業の物価見通し(5年後)は急上昇し、2023年12月調査では2.1%となった(日銀短観)。これは企業が、2%の物価上昇は一時的でなく、中長期的に続くと考えていることを示す。
企業はバブル崩壊後、景気停滞が長期化する過程で、グローバル化による価格競争激化の影響もあり、コスト増を価格に上乗せすることが難しくなっていった。ベアの慣行は失われ、それが賃金を抑制して雇用を守ることにつながったが、その過程で、物価・賃金が上がらないことが当然視される世界になっていった。
新型コロナ禍後の需要回復に伴うエネルギー価格上昇を起点とする今回の物価上昇は、モノの価格上昇から始まったが、その後、サービス価格も上昇に転じた。企業は賃上げに積極的になり、2023年の春闘賃上げ率は3.58%に高まった (連合調査)。
これは、物価・賃金が上がらない世界から、コストが上がれば物価が上がり、物価が上がれば賃金も上がるのが当然という世界に転換したことを示している。この間、日本銀行は粘り強く金融緩和を続けてきた。それには批判もあったが、結果としてデフレから脱却し、物価・賃金が動く正常な経済の姿に変わったとすれば、現在までの異例の金融緩和は成功だったといえるのではないか。
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(2024年1月9日)
1963年生まれ。
野村総合研究所、富士総合研究所、富士通総研などを経て2020年9月から現職。専門は住宅・土地政策、日本経済。主な著書に、『捨てられる土地と家』(ウェッジ)、『縮小まちづくり』(時事通信社)、『限界マンション』(日本経済新聞出版社)など。
【米山秀隆オフィシャルサイト】