時代を読む

デフレと日本銀行

慶應義塾大学名誉教授
竹中 平蔵 氏

金融界には日本銀行の前総裁・黒田東彦氏の異次元金融緩和を「正常化」してほしいとの意見が強いようだが、デフレ克服を目指した黒田氏の貢献を正当に評価することを忘れてはならないだろう。

第2次安倍内閣が発足し、デフレこそが経済停滞の大きな原因であり、その克服には日本銀行の金融政策がキーになるという認識を安倍首相は示した。結果として2013年1月に政府・日銀の共同声明で2%の物価目標が示され、それを実現すべく黒田氏が総裁に任命された。

日本経済新聞の連載「私の履歴書」で黒田氏は、1990年代に日銀が採用したゼロ金利政策を2000年に解除したのは「間違っていると思った」と述べた。筆者も同感だ。その後、日銀は2001年に量的緩和策を採るが、2006年にはこれも解除する。

「黒田日銀」は2013年4月の最初の決定会合で大胆な金融緩和を決めた。その結果、2014年には消費者物価(生鮮食品を除く)は対前年同月比1.3%(期待物価上昇率は2%)にまで上昇したが、残念ながらここで消費税が5%から8%に引き上げられ、デフレを長引かせた。

皮肉なことに今、エネルギー価格の高騰で、世界的な物価上昇が実現した。そんな中で、デフレ克服と中央銀行の関係を考えるきっかけが希薄化している。未来を考えるには今を理解する必要があり、今を理解するには過去を振り返る必要がある。

2023年12月11日

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竹中平蔵 氏

1951年生まれ。
ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学教授などを経て2001年の小泉内閣発足後、経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣などの閣僚を歴任。慶應義塾大学名誉教授。政府の各種会議のメンバーも務める。
【竹中平蔵公式ウェブサイト】

竹中平蔵(たけなか へいぞう)