日本の問題

続・金利上昇への備え

東京大学名誉教授
伊藤元重 氏

長い間、ゼロ近辺で安定していた日本の金利が上昇を始めている。米国や欧州など海外の主要国で物価上昇と金利上昇が続く中、日本だけ低い金利が続くとは思えない。日本で金利上昇の動きが出てきたことは驚くべきことではない。

ただ、日本銀行が金利を低く抑えるためにイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)と呼ばれる管理を行ってきたことが話を複雑にしている。日銀が突然、この管理をやめて市場金利が自由に動くようにすれば、金利が急騰して市場が大混乱することにもなりかねない。そうした混乱を恐れていることも、日銀が金融政策の変更に慎重な理由だろう。

ただ、日本の消費者物価が前年比4%(2022年12月)の上昇率となる中で、日銀が0.5%を上限に長期金利をコントロールすることには無理があるように思える。日銀は2023年と2024年には2%以下に物価上昇率が下がると想定している。仮にそうであれば、急いで金利のコントロールを止める必要はないだろう。

しかし、消費者物価は上昇を続けており、海外では7%を超えるインフレである。企業物価は日本でも前年比10%近い上昇率だ。こうした動きから考えると、日本の物価上昇率もしばらく高い状態が続くと考える方が自然だ。いずれは市場の趨勢に合わせて金利上昇を容認しなくてはならないだろう。今後の金利の展開の鍵を握るのは物価の動きだ。

2023年2月6日

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伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。2016年から2022年3月まで学習院大学国際社会科学部教授。東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)