日本の問題

「デジタル村民」で村おこし

地域政策研究家
荒田 英知 氏

新潟県・旧山古志村の住民組織が、世界に向けて「デジタル村民」を募っている。特産の錦鯉を描いたデジタルアート「Nishikigoi NFT」を購入した人に電子住民票を発行するという仕組みで、インターネットのメタバース(仮想)空間には「仮想山古志村」が再現された。

山古志村は 2004年の新潟県中越地震で大きな被害を受け、2005年に長岡市と合併して地方自治体としての歴史を閉じた。震災前の約2,200人から約800人にまで減少した住民は地域を甦らせようと努力を重ねた末、この策にたどり着いた。デジタル村民は1,000人を超え、すでにリアル村民を上回る。実際に山古志を訪れる(「帰省」と呼ぶ)デジタル村民も増加。震災追悼式典をメタバースで中継するなど、デジタルとリアルの融合が進む。双方によるDAO(分散型自律組織)も設立され、新たな自治が芽吹きつつある。

全国的に人口減少が避けられない中、定住人口だけで地域の盛衰を図るのではなく、観光などでその地を訪れる交流人口を増やしたり、恒例イベントやふるさと納税を通じて地域に関心を寄せてくれる関係人口に着目したりすることが、地方創生に有効とされてきた。

デジタル村民は、インターネットの最先端技術を用いた、新たな関係人口創出策といえる。Web3時代ならではの「村おこし」の切り札になるか、今後の進展に注目したい。

※ブロックチェーン技術を活用した分散型インターネット。

2023年1月10日

過去記事一覧

荒田 英知 氏

1962年、福岡県生まれ。
1985年、鹿児島大学を卒業後、PHP研究所に入社。地域政策分野の研究員として30年以上全国をフィールドワーク。北海道大学特任教授、九州国際大学非常勤講師も務めた。

荒田 英知 (あらたひでとも) 氏