日本の問題

「異次元緩和」の出口

大阪経済法科大学
経済学部教授
米山秀隆 氏

日銀の現在の「異次元緩和」の誘導目標は、短期金利がマイナス0.1%のマイナス金利、長期金利が上限0.5%となっている。長期金利は10年物国債の利回りである。中央銀行は伝統的には短期金利を目標の水準に誘導することで長期金利の水準にも影響を及ぼしてきたが、現在の日銀は長期金利も国債の売買によって直接コントロールしている。

しかし、アメリカが2022年、インフレ抑制のため引き締めに転じたことで、この枠組み維持が難しくなってきた。金利上昇圧力が高まる中、日銀はそれに対抗するため、大量の国債購入を余儀なくされた。一方、金利の高いドルが買われて大幅な円安となり、円安抑制のため日本の引き締めの必要性が高まっていったのだ。

引き締めの手順としては、まず長期金利の上限引き上げが必要になる。しかし、引き上げ予想が強くなると、実際の引き上げ前に市場が国債を売り浴びせ、長期金利急騰の恐れがあることが問題だった。このため、上限が0.25%から0.5%に引き上げられたのは、2022年12月の市場が予想していないタイミングだった。

今後の金融政策の焦点は、市場の混乱を招くことなく、上限撤廃など次の一手に踏み切れるかどうか。それは、アメリカのインフレ懸念が後退して世界的な金利上昇が鈍化し、日本の金利も上昇しにくいタイミングが望ましいと考えられる。植田和男新日銀総裁の手腕が問われる。

2023年3月20日

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米山秀隆 氏

1963年生まれ。
野村総合研究所、富士総合研究所、富士通総研などを経て2020年9月から現職。専門は住宅・土地政策、日本経済。主な著書に、『捨てられる土地と家』(ウェッジ)、『縮小まちづくり』(時事通信社)、『限界マンション』(日本経済新聞出版社)など。
【米山秀隆オフィシャルサイト】

米山(よねやま) 秀隆(ひでたか)氏