時代を読む

サイバーセキュリティ考

慶應義塾大学名誉教授
竹中 平蔵 氏

ある専門家から、興味深い本を紹介された。「ラザルス」という主題が付けられたノンフィクション。ラザルスとは、北朝鮮と関係があるとされるハッカー集団で、これまで日本を含むいくつかの国で重大な攻撃があったことが伝えられている。

日本は、デジタル化が遅れているとしばしば指摘される。容易に想像されるように、デジタル化とサイバーセキュリティ対策はコインの両面だ。したがって、日本ではサイバーセキュリティ対策も不十分であることが示唆されている。

この「ラザルス」という本は、イギリスのジャーナリストによって書かれたもので、多くの事実が指摘されている。中でも、バングラデシュの中央銀行がサイバーアタックを受け、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)も巻き込んで大きな問題に広がった事案は興味深い。物語としては緊迫感にあふれ、引き込まれるが、その教訓は実に明快だ。それは、サイバー攻撃が狙うのは、ネットワークのハードやソフトではなく人間の心理だ、という点である。

サイバーアタックは、デジタル空間におけるテロ行為だ。リアル空間でのテロさえあまり経験していない私たちには、見えないサイバー空間でのテロは更に想像しにくい。しかし、この本が指摘するように、結局は私たち一人ひとりがセキュリティに敏感になることが、デジタル化を進める過程で重要になることは間違いない。

2023年8月21日

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竹中平蔵 氏

1951年生まれ。
ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学教授などを経て2001年の小泉内閣発足後、経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣などの閣僚を歴任。慶應義塾大学名誉教授。政府の各種会議のメンバーも務める。
【竹中平蔵公式ウェブサイト】

竹中平蔵(たけなか へいぞう)