日本の問題

「良い均衡」から「悪い均衡」へ

東京大学名誉教授
伊藤元重 氏

米国のシリコンバレー銀行の破綻で金融市場は大騒ぎだ。追い討ちをかけるように、スイスの金融大手であるクレディ・スイスの経営の行き詰まりが問題になり、同じスイスの金融最大手UBSによる買収と中央銀行による支援が決まった。こうした動きに、金融市場は大きく反応している。

2022年のノーベル経済学賞は、銀行の取り付けモデルなどを明らかにした経済学者に贈られている。その主たる論点は、平時には預金を集めてリスク資産で運用する銀行が、いったん預金の取り付けに遭うと破綻しうるというメカニズムだ。経済学では、これを「良い均衡」と「悪い均衡」の併存と呼ぶ。今、世界のいくつかの金融機関が直面しているのは、この良い均衡から悪い均衡への移行である。

なぜ、このような変化が起きたのか。それは少し前まで主要国で過剰な流動性供給が行われ、低金利と過剰資金の中であまりに拡大経営が行われすぎたからだ。クレディ・スイスの場合には、放漫な経営へのチェックが働かなかった。世界的なインフレの中で政策金利が引き上げられ、放漫経営を容認する環境ではなくなったということだろう。

金融危機が広がっては困るので、中央銀行による適切な資金注入は必要であるが、こうした動きを放漫金融への牽制と考えれば、これも時代の流れであるともいえる。金融機関の経営がより引き締まったものになることを期待したい。

2023年4月3日

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伊藤元重 氏

1951年生まれ。
米国ヒューストン大学経済学部助教授、東京大学経済学部助教授などを経て1993~2016年東京大学の経済学部と大学院経済学研究科の教授を歴任。2007~2009年は大学院経済学研究科研究科長(経済学部長)。2016年から2022年3月まで学習院大学国際社会科学部教授。東京大学名誉教授。
【伊藤元重研究室】

伊藤元重(いとう もとしげ)