日本の問題

賃金が上がらない要因

富士通総研 主席研究員
米山秀隆 氏

労働需給は一段と逼迫しており、有効求人倍率はバブル期の水準を上回っているにもかかわらず、賃金の伸びは鈍い。この要因としては、バブル崩壊後、労働者側が雇用維持のため、長い間、賃金抑制を受け入れてきたこと、他方、企業側は将来の不確実性に備え、賃上げに慎重姿勢をとり続けてきたことなどがある。こうした状況が変わっていくためには、景気拡大がより長期化し、賃上げなしには雇用を確保できないという環境になる必要がある。

それ以外の要因として、バブル期は設備投資が活発化し、雇用者1人あたりの資本ストックが増えていたのに対し、近年は減っていたという違いがある。これは、賃上げのためには投資を行い、労働生産性を向上させる必要があることを意味する。

ただ、最近の省力化投資の活発化は、短期的には賃金上昇を抑える可能性がある。企業が生産性を向上させ、賃金コスト上昇圧力を吸収しているためである。しかし、中長期的には、生産性上昇は企業収益を増やし、企業の賃金支払い能力を向上させていく。やがては投資増加が賃上げにつながる状況に変わっていくと考えられる。

2017年9月11日

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米山秀隆 氏

1963年生まれ。
野村総合研究所、富士総合研究所を経て1996年富士通総研。2007~2010年慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員も務める。専門は、日本経済、経済政策、住宅・土地政策。
【富士通総研・研究員紹介】

米山(よねやま) 秀隆(ひでたか)氏