日本の問題

アメリカの「タイヤ伝説」

ジャーナリスト
蟹瀬 誠一 氏

ある日、新規オープンしたアメリカの大手デパートに自動車タイヤを持った男性客が現れた。タイヤを返品したいという。応対した店員は早速タイヤを受け取り返金した。ありふれた光景だが、実は驚きの展開があった。そのデパートではタイヤは販売していなかったのである。それだけではない。会社に損害を与えた店員は上司に叱責されるどころか、ほめられたのだ。なぜか。

そのデパートでは「あらゆる状況において(顧客にとって)最良の判断を下す」というルールがあったのだ。「タイヤ伝説」として、アメリカでいまだに語り継がれている出来事である。

しかし、そんなことをしていたら経営は立ち行かなくなるのではないか。そう思いきや、実際の売り上げは右肩上がり。なぜなら顧客の利益を第一に考えてくれるお店として顧客から絶大なる信用を勝ち得ているから。顧客第一主義や「おもてなし」という言葉はちまたにあふれるが、短期的利益や自分たちの都合ばかりを優先して本当にそれを実践しているところは多くない。サービスは伝説になるまでやり遂げることが大切なのだ。

2015年12月28日

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1950年、石川県生まれ。
上智大学文学部新聞学科卒業後、アメリカAP通信社記者、フランスAFP通信社記者、アメリカTIME誌特派員を経て、1991年TBS「報道特集」キャスターとしてテレビ報道界に転身。国際政治や経済、文化に詳しく、現在もテレビ東京「マネーの羅針盤」メインキャスターなどを務める。

蟹瀬(かにせ) 誠一(せいいち) 氏