日本の問題

貿易黒字は定着するか

富士通総研 上席主任研究員
米山秀隆 氏

日本の貿易収支(輸出から輸入を差し引いたもの、通関統計ベース)は東日本大震災以来、化石燃料の輸入が大幅に増え赤字に転じた。さらに、2014年1~3月期には消費税率引き上げに伴う駆け込み需要で輸入が増え、赤字幅が拡大した。しかし、その後は回復に向かい、今年3月には2年9カ月ぶりに黒字に転じた。アメリカを中心とした世界経済の回復により輸出が増加したことに加え、原油価格急落に伴い輸入が減少したことなどによる。

ただし、今後、黒字が定着するかは疑わしい。原油価格がやがて上昇基調に戻っていけば、輸入を増加させる要因になり、日本の景気回復も輸入を増加させると考えられる。こうした輸入増加要因を打ち消すほど、輸出が増加していく可能性は低い。海外現地生産の拡大により、輸出が増えにくい構造に変わっているためである。

ただ、貿易黒字は増えなくても、海外投資からの利子や配当といった所得収支は着実に増えている。しかも、その収益は円安により円ベースの評価額がかさ上げされている。日本経済は貿易ではなく、投資で稼ぐ構造に転換したといえるだろう。

2015年5月18日

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1963年生まれ。
野村総合研究所、富士総合研究所を経て1996年富士通総研。2007~2010年慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員も務める。専門は、日本経済、経済政策、住宅・土地政策。
【富士通総研・研究員紹介】

米山(よねやま) 秀隆(ひでたか)氏