日本の問題

米利上げの功罪

社会経済学者・エコノミスト
斎藤 精一郎 氏

米国が非伝統的金融政策を発動したのは7年前、リーマン・ショック直後だった。まず、中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)は金利をゼロにし、次いで大量の現金を市場に供給する量的緩和を行った。金利はゼロより低くできないからだ。

しかし、この異例の量的緩和策は景気回復が軌道に乗ったことを受け、2014年秋に終了。そこで、ゼロ金利政策を止め、利上げをいつ行うかに、世界中が注目する。なにせ、米国は世界経済の中心国。その利上げは景気回復を意味するわけだから、それ自体は世界経済にとって好ましい。米国の景気回復で他の国から米国への輸出が増えるし、原油などの資源価格も上がる。

ところが、米利上げは世界経済にマイナス効果をもたらす可能性もある。中国など新興国に投資されていた大量のドル資金が米国に還流しかねないためだ。また、利上げでドル高になれば、新興国通貨が下落、これが資本流出を激化させる。とくに減速中の中国経済を直撃し、世界の経済・金融に波乱を引き起こしかねない。だから、世界は米国FRBの一挙手一投足を固唾をのんで見守っている。

2015年9月28日

過去記事一覧

1940年生まれ。社会経済学者・エコノミスト。
1963年日本銀行入行。1972年立教大学社会学部講師に転身し、助教授を経て1980年教授。テレビの経済情報番組でコメンテーターも務める。1991年4月から2015年6月までNTTデータ経営研究所(株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所)所長。

斎藤 精一郎氏