日本の問題

「スモール」の美しさ

ジャーナリスト
蟹瀬 誠一 氏

『スモール・イズ・ビューティフル』という本が世界中で話題になったことがある。1970年代初頭、英経済学者エルンスト・フリードリッヒ・シューマッハが資本主義の問題点を分析したエッセイ集で、40年以上経った今読み返しても新鮮な驚きがある。現在の私たちが直面している諸問題とその解決策が指摘されているからだ。

内容を一言でいえば、科学万能主義と大量消費を通してがむしゃらに経済成長を追い求める生き方をやめ、節度ある持続可能なライフスタイルを実現すれば、人類は幸せになれるという考えだ。しかし、現実に欲と羨望の渦がちまたにあふれ、それが私たちを浪費に走らせ、豊かさより貧富の差と環境破壊を拡大させている。多くの国が、スモールがビッグより美しいということに気がついていないのである。

ならば、日本は“縮小文明”のリーダーになれるのではないか。茶道や盆栽をみればわかるように、1杯の抹茶、1本の樹木に宇宙を表現する素晴らしい能力をもっているからだ。物質が縮小すればするほど精神が拡大する。そんな思想の中に日本の強みが隠されている気がする。

2016年2月22日

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蟹瀬(かにせ) 誠一(せいいち) 氏

1950年、石川県生まれ。
上智大学文学部新聞学科卒業後、アメリカAP通信社記者、フランスAFP通信社記者、アメリカTIME誌特派員を経て、1991年TBS「報道特集」キャスターとしてテレビ報道界に転身。国際政治や経済、文化に詳しく、現在もテレビ東京「マネーの羅針盤」メインキャスターなどを務める。

蟹瀬(かにせ) 誠一(せいいち) 氏