自社株買いと設備投資
経済ジャーナリスト
大西良雄 氏
大西良雄 氏
東証1部上場企業の自社株買いは2012年度の2.3兆円から2015年度は6.5兆円に急増、2016年度も6月まで前年同期を上回る勢いで増えている。
自社株買いは市場から自社株を買い上げて流通する発行済み株式数を減らし、1株当たり利益を増やす方法だ。理論的には発行済み株式数が減少した分、株価は上昇、株主利益に貢献する。実際、自社株買いの発表直後、株価は一時的に急騰する。
だが、その後、利益が振るわず、株価が下落に転じるケースも少なくない。そのため、当期利益や利益剰余金(内部留保)を自社株買いに費消し、一時的に株価を上げるのではなく、それを設備投資に投じて企業の稼ぐ力を高め、株価を持続的に引き上げるのが本筋だという声も増えてきた。
労働力人口が減少する中、設備投資は日本経済の底上げに欠かせない。法人企業統計によれば2012~2014年度に、企業の内部留保は約50兆円増えたが、設備投資は5兆円しか増えていない。円高で業績見通しが悪化しており、自社株買いの勢いが続くかは疑問だが、内部留保を設備に投じる経営は捨ててはなるまい。
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1945年生まれ。
上智大学経済学部卒業後、東洋経済新報社入社。記者を経て、「週刊東洋経済」編集長、取締役出版局長、同営業局長、常務取締役第一編集局長を歴任。2006年に退任後、経済ジャーナリストとして独立。早稲田大学オープンカレッジ講師も務める。