飛躍の源泉

ヘラ絞り技術が生んだ燻製器

神戸国際大学経済学部教授
中村 智彦 氏

ヘラ絞りという金属加工技術がある。金属の板を旋盤に取り付けて回転させ、ヘラで型に押し付けながら形を整える。軟らかい粘土で茶器などを形作る陶芸をしているかのように、硬い金属が次第に形を整えられていく。そのヘラ絞りで高度な技術を有するのが神奈川県川崎市の今野工業株式会社だ。

鉄やステンレス、アルミニウム、真ちゅう、銅などいろいろな材質から、ヘラ絞りの技術で自動車部品や厨房機器部品、照明器具など様々な形状のものを作り出すことができる。多くの分野で使われる金属部品の加工には欠かせない存在となっている。

そうしたヘラ絞りの技術を利用して、小型の燻製器を作ったのは、専務取締役の今野靖尚氏。初のオリジナル製品で新たな市場開拓に力が入っているかと思いきや、「自分が欲しいものがなかったので、作ってしまいました」と笑う。しかし、この燻製器、高い密閉性で煙が少なく、28㎝の大口径と上下2段式の網で一度に多くの食材を燻製することが可能なうえ、ステンレス製のためさびずに衛生的。展示会に出品してみると好評で欲しいという人が続出した。

「ヘラシボリ屋が本気で作った燻製器」は、川崎発の新しい名品になりそうな気配だ。

2018年3月19日

今野工業株式会社 :

神奈川県川崎市高津区下野毛2-14-18
【今野工業株式会社 HP】

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中村智彦氏

1964年生まれ。
大阪府立産業開発研究所などを経て2007年から神戸国際大学経済学部教授。専門である中小企業論・地域経済論では、現地での調査・研究を重視。中小企業間のネットワーク構築や地域経済振興プロジェクトにも数多く参画している。
【凡才中村教授の憂鬱HP】

中村智彦氏