飛躍の源泉

OEMから自社製品へ

立教大学経済学部教授(金融論)
山口 義行 氏

「刃物のまち」、岐阜県関市で刃物を製造・販売する三星刃物株式会社は、1873(明治6)年創業の老舗だ。いち早く海外向けの販売を開始。その後円高が進むと、中国の経済特区に日本企業の第一陣として工場を設立した。まさに海外進出のパイオニアだ。

しかし、OEM(相手先ブランドによる製造)がメインの同社は、中国の技術成長に伴い「安さの壁」に直面する。米国企業と1年以上かけて進めた商談が図面やサンプルごと中国企業に持っていかれたこともあった。

限界を感じていた5代目の代表取締役社長、渡邉隆久氏の背中を押したのは、パン教室を営む妻友佳理氏の素朴な疑問だった。「老舗なのに自社の包丁はないの?」

この言葉を契機に、自社製品開発が始まった。友佳理氏がスーパーバイザーとなり、切れ味や使いやすさ、デザインやメンテナンスの容易さなどあらゆる面にこだわった。こうして誕生した初の国内向け自社ブランド「和 NAGOMI」の「丸 MARU」シリーズは老舗の技術とこだわりが注ぎ込まれたブランドとして数々の雑誌で取り上げられた。

世界へ羽ばたく同社の製品。時代を読み、新しいことに挑戦し、失敗を乗り越えながら成長する。その繰り返しが「老舗」を生む。

2016年7月18日

三星刃物株式会社 :

岐阜県関市下有知5178
【三星刃物株式会社 HP】

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山口義行(やまぐちよしゆき)氏

1951年愛知県生まれ。
2001年に立教大学経済学部教授に就任。外務省参与として中小企業の海外展開、関東経済産業局「新連携支援」政策の事業評価委員長として中小企業連携支援にかかわるほか、企業経営者との勉強会を全国で開催するなど、自ら中小企業支援を積極的に展開。
【山口義行・公式HP】

山口義行氏