自社の価値と位置を再認識
名城大学経済学部特任助手
大前 智文 氏
大前 智文 氏
愛知県一宮市で天然原料の紳士服地を設計・生産・販売する葛利(くずり)毛織工業株式会社。創業は1912(大正元)年。ションヘル型織機という旧式織機にこだわり、高品質かつ独特な風合いを持つ生地が再評価され、堅調な業績を上げる。近年は紳士服の本場・欧州向け輸出も伸ばしている。
同社は尾州毛織物産地で、多品種・小ロットに対応した丁寧なものづくりを志向した。しかし、競争環境の変化から売り上げ減少が続いた。専務の葛谷聰氏は「時代遅れの仕事。常に廃業を意識していた」という。
転機は2006年。海外向け商談会で世界的有名ブランドへの採用・納品が決まり、欧州への輸出が始まった。3年後には、バイヤーから直接「もはや欧州では生産できない生地」という高評価を受けた。繊維業界から大きな注目を集め、売り上げは増加に転じた。葛谷専務は認識を改め、自社の経営や将来を前向きに考えるようになった。
同社のものづくりに共感する熱意ある若手社員も増加。また、自社の存続だけでなく、尾州産地全体との「共存共栄」も志向する。毛織物生産にかかわる数多くの取引先企業との互恵的な協力関係を基に、「今後も100年は続けたい」と決意を新たにする。
2015年8月31日
葛利(くずり)毛織工業株式会社 :
愛知県一宮市木曽川町玉ノ井字宮前1番地
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1982年愛知県生まれ。
2013年に名城大学経済学部特任助手に就任。同年より日本中小企業学会幹事。駆け出しの研究者としてフィールドワークを重ね、中小企業に関する調査・研究に取り組む。