飛躍の源泉

「時」が魅力を醸成する銅器

明治大学経営学部教授(中小企業研究)
岡田浩一 氏

新潟県燕市の株式会社玉川堂は1816(文化13)年、仙台の渡り職人が伝えた鎚起(ついき)銅器の技術を玉川覚兵衛が受け継ぎ、製造を始めた、創業200年の老舗企業だ。湯沸かし、急須、茶筒などの茶器や、ぐい呑、ビールカップなどの酒器を、鎚起製法で作っている。鎚起は、鎚(つち)で打ち起こして器を作っていく技法だが、銅をたたいて伸ばすのではなく、たたいて縮めていくところがポイントである。

いずれの鎚起銅器もすばらしいが、特につぼみ形のワインクーラーは、微妙なカーブ、色合いなどが大変魅力的で、ワインという洋風文化と鎚起銅器という和文化が融合した魅惑的空間を演出する逸品である。

7代目にあたる現代表取締役社長の玉川基行氏は「打つ。時を打つ」という言葉で、玉川堂の魅力を表現する。これは、玉川堂の魅力は歴史と技術だけでなく、世代を超えて銅器を使ってもらう「時」にあるという意味だ。利用者が銅器を持った時点から「時」を刻み始め、世代を超えて使ってもらう。「時」が銅器の魅力を醸成させていくのである。

同社はこのコンセプトをもって海外市場への展開などにも積極的に取り組んでおり、次なる100年へと向かっている。

2016年5月30日

株式会社玉川堂 :

新潟県燕市中央通り2-2-21
【株式会社玉川堂 HP】

過去記事一覧

プロフィール 岡田浩一

1962年新潟県生まれ。
2001年に明治大学経営学部教授に就任。専門分野は中小企業経営論。ロンドン大学ロイヤルホロウェイ客員研究員、日本中小企業学会理事、中小企業IT経営力大賞選考作業部会長、攻めのIT経営中小企業百選選定委員長。主な著書に「中小企業のIT経営論」など。

岡田浩一