飛躍の源泉

本物のビロード

神戸国際大学経済学部教授
中村 智彦 氏

「天鵞絨」と書いて「ビロード(びろうど)」と読む。あるいは、その名称くらいは聞いたことがあるかもしれない。独特の光沢と風合いを持つ起毛織物のことで、海外では「ベルベット」と呼ばれている。

実は、このビロード、日本に伝わったのは戦国時代のことだと考えられており、その当時の技法を今に伝えている世界でも数少ない会社が、京都府南丹市園部町にある1887(明治20)年創業の日本天鵞絨工業だ。

下駄や草履の高級な鼻緒から伝統文化財の修復にまで使われる同社のビロードだが、同社は今年6月1日に落雷を受け、出火。代表取締役社長を務める藤本義人氏の自宅兼作業場が燃え、貴重な資料や機械などが焼失した。しかし、藤本氏は、多くの人たちからの声と支援を受けて工場の再建を進め、すでに織物作業を再開、「本物のビロード」作りの灯は守られそうだ。

生地1反あたり1万本もの細い針金を縫い込み、その後、その針金を特殊な小刀で職人が手作業によって1本ずつ切り出すという、超がつくほどの熟練の技で生み出されるビロード。日本の伝統文化やものづくりのパワーの一端は、こうした熟練職人たちが連綿と受け継いできた技術が支えている。

2017年9月11日

日本天鵞絨工業株式会社 :

京都府南丹市園部町若松町125
【日本天鵞絨工業株式会社 HP】

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中村智彦氏

1964年生まれ。
大阪府立産業開発研究所などを経て2007年から神戸国際大学経済学部教授。専門である中小企業論・地域経済論では、現地での調査・研究を重視。中小企業間のネットワーク構築や地域経済振興プロジェクトにも数多く参画している。
【凡才中村教授の憂鬱HP】

中村智彦氏