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Book

『ブラックボックス』
(砂川文次、講談社)

「ずっと遠くに行きたかった」。自衛隊をやめ、自転車で荷を配達するメッセンジャーとして働くサクマはそんな思いを抱きながらも毎日、都内をひた走り、先行き不透明な現代を懸命に生きている。「新型コロナ禍」で注目を集めたギグワーカー(インターネットで仕事を請け負う労働者)のリアルな姿を描いた第166回芥川賞受賞作品。

30歳を目前にして社会とのつながり方にもがき苦しむサクマは同棲相手や仕事など身の回りのすべてについて「ちゃんとしなきゃ」と思いつつ、感情の暴発を抑えられずに転落していく。自転車便メッセンジャーとしての心情を細やかに描写した前半と、不安や焦燥、孤独や突発的衝動といったリアルな感情をむきだしにした後半とのギャップが特徴的。どん底から光明を見いだそうとする主人公の複雑な内面はまさに中身がわからないブラックボックスのようだ。

2022年3月28日

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