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Book

『テスカトリポカ』
(佐藤究著、KADOKAWA)

『Ank:a mirroring ape』で大藪春彦賞と吉川英治文学新人賞をダブル受賞した著者の新作にして、第165回(2021年上半期)直木賞の受賞作。

メキシコの麻薬戦争から逃れて日本へ逃亡したルシアを母に持つ土方コシモは、対立組織との抗争の果てにメキシコから逃走した麻薬密売人バルミロ・カサソラと日本で出会う。殺し屋として訓練を受け、カサソラの臓器売買ビジネスに加担していくコシモ…。

書名のテスカトリポカ(煙を吐く鏡)はメキシコの地で繁栄したアステカの神の名で、かつてアステカ王国では偉大な神に生贄の心臓を差し出し祈りを捧げてきたという。古来の風習が臓器売買ビジネスと交差し、物語は展開する。半グレ、合成麻薬、暴力団、社会の闇が実は私たちの生活の薄皮一枚向こうでうごめいていることを実感する。スリル満点の描写で読者を圧倒するクライムノベルだ。

2021年10月18日

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