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Book

『52ヘルツのクジラたち』
(町田そのこ著、中央公論新社)

東京から九州のとある海辺のまちに引っ越してきた女性が、虐待を受けている言葉の不自由な少年と出会い、救いの手を差し伸べる物語。クジラは仲間を探す時、10~32ヘルツの周波数の声をあげるが、52ヘルツの周波数の声を上げるクジラがいるという。その声をほかのクジラは受け取ることができず、近くにいても仲間と認識されない孤独な存在、それがタイトルの由来だ。

女性はかつての自分が52ヘルツの声をあげていたと認識し、少年の現在を重ねていく。名前が分かるまで少年を「52」と呼び、「人には魂の番(つがい)がいる」と諭し、孤独ではないのだと優しく包み込む。

虐待、ひとり親、トランスジェンダーといった社会問題を提起する話題作。孤独でつらくて悲しい現実を突きつける内容でありながら、読後にほっと安心できる心温まるストーリー。2021年本屋大賞受賞作品。

2021年11月29日

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