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何気ない一言で人を動かした
稀代の知将・野村克也

スポーツライター
石川 哲也 氏

先月死去した野村克也の指導で覚醒した選手は数多いが、通算113勝をあげた江本孟紀もその一人。ドラフト外でプロ入りし、未勝利のまま2年目に南海ホークス(当時)へトレードされると、選手兼任監督だった野村との初対面で「オレが球を受けたらオマエ10勝以上するで」と声をかけられた。

この一言に奮起した江本はローテーションに定着。シーズン16勝をあげ一躍チームのエースとなった。

「0勝の投手に『2けた勝てる』なんて今考えれば、移籍してきた選手へのお愛想でしかない(笑)。でも惨めな球歴でくすぶっていたボクは、それを真に受けて勝手に頑張った。野村さんの言葉には、そうやって選手をやる気にさせる不思議な力がありましたね」

何気ない一言で心をつかみ、人を動かす。日本球界におけるデータ野球の先駆者は人心掌握に長けた稀代のリーダーでもあった。

2020年3月9日

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石川哲也氏

1977年神奈川県生まれ。
野球を中心にスポーツの歴史や記録に関する取材、執筆をライフワークとする。著書に「歴史ポケットスポーツ新聞 野球」(大空出版)、「メジャーリーグ大記録への挑戦」(宝島社)など。